銀の月夜に願う想い
「お母様!!」
走り寄って来たセヘネは母親に抱き付いた。エメフレアは娘を抱き締める。
「愛しい私の子……あなたがいなくて私はとても寂しかったわ」
「私もです、お母様」
仲睦まじい二人を見ていたルゼルは誰にも見られないように嘆息する。そしてトファダを手招きで呼んで耳元で言う。
「レーアのところについててくれて構わない。ここは僕がやるから」
「でも一応一緒にいますよ。あなた一人にしておいたら返ってレーア様に怒られますよ」
「お前は僕とレーアのどっちに仕えてるんだ?」
「無論あなたですが、女性は敬わなければ」
目をすがめるルゼルにトファダはさらりと返す。
「僕はレーアが心配なんだけど」
「国王陛下はもう懲りていると思いますよ。女性に殴られて気絶したんですから」
「そりゃあ、レーアのあれはメレイシア仕込みだから」
メレイシアの呪いもさることながら、レリアは母親から習った護身術がある。だからルゼルは絶対にレリアを怒らせるようなことはしない。
殴られるのは嫌だから。
「まあ、ミースもいるから大丈夫かな」
北の塔の女中は、みんなルゼルの管轄だ。だから国王よりルゼルの命令を重視する。
いままで他人に必要以上の興味を持たれないように出入り制限は甘くしていたが(何せ人間は制限されると返って興味に拍車の掛かる生き物なのだから)今回のことがあって女中はみんな怒っている(レリアは北の塔の中では人気なのだ)。
ルゼルも今回のようなことがまたあっては困るので、これから警備と出入り制限を厳しくするつもりだ。
(レーアのことだから大丈夫だろうけど……)
何せメレイシアの守護を持つ者なのだから。
はぁ、とため息をついたルゼルは、その時声をかけられた。
「ルゼル王子?」
「はい?」
あくまで笑みは絶やさずに話しかける。エメフレアは満面の笑みを向けてきた。