銀の月夜に願う想い
柔らかな髪を撫でるこの時間が好き。心が満たされているのを一番感じる時間だから。
「レーア」
「なぁに」
下から見てくる青い目。レリアは細められたそれを見下ろした。
「はい、あーん」
レリアはフォークにさしたケーキを食べるルゼルに笑いかけた。
「美味しい?」
「うん。レーアの手作りが一番好きだなぁ」
「あなたは甘いの嫌いだものね」
レリアはそれを知っているから、作るものを敢えて苦めにする。
そしてルゼルはその秘密をレリアにしか言っていない。
今はまだ太陽も昇り切らない真っ昼間だ。それなのにどうしてルゼルがここにいるのか。
理由は簡単。
ここ数日エメフレアがいるからだ。
セヘネ以外の婚約者のいないルゼルが、夜中に一人部屋から出て行く、などと彼女が聞いたらすぐに勘付かれるだろう。
『他に女がいる』と。
エメフレアは来る度にルゼルの部屋の前、執務室の前、その他諸々に自分の連れてきた者たちを配置させて行動をチェックしている。
だから大人しくしていたのだが、数日やっても何もなかったことから、兵士の気の緩んだ時を狙って忍んで来たのだ。
「好きな人に会えるって、こんなに幸せなことなんだね」
「変なクー。数日ぶりだものね、こうして会うのは。でもお仕事はよろしいの?」
「大丈夫。レーアに会えない鬱憤を全部仕事にぶつけてたら、なくなったから」
「ふふ…単純ね」
愛しげに髪を撫でるレリアの垂れてきた金髪を手に絡めたルゼルは、それを口元に持って行く。
「良い匂い…」
「今日はずっと一緒にいられる?」
「うん……やっぱりレーアと一緒にいる時が一番安心出来る…」
猫のように甘えてくるルゼルは、お疲れのようだ。青い瞳がトロンとしているのに、思わず苦笑する。