銀の月夜に願う想い
夜、舞踏会の催されているホールにいたルゼルは相変わらずいつものようにソファに座ってぼうっとしていた。
向かい側にはアルスがいる。
「誰かキレイな娘はいないかなぁ」
なんてぼやきながらも出歩かないのは、ルゼル目当てで近寄ってくる貴族の娘を口説くためである。
目の前で獲物を狙う獣のような瞳をしているアルスを見たルゼルはため息をついた。
「それにしても、随分血色の良い顔をしているじゃないか」
いきなりこっちを向いて言ってきた友人に、ルゼルはグラスを取って中身の液体を舐める。
「そう見える?」
「見える。昨日は真っ青だっただろ。おかげで女の子みんなにお前の体調聞かれたんだぞ」
恨みがましい目を向けられるが、無視する。
誰が理由なぞ話してやるものか。
と。
目の前がいきなり真っ暗になった。周りでザワザワと騒ぐ気配が伝わってくる。
「だーれだ?」
耳元でした声とともにフワッと匂いが鼻をくすぐった。
思わず持っていたグラスを落としそうになる。
「レーア?」
手を離して引きながら後ろを振り返る。そこにはふんわりと微笑むレリアがいた。
「なんで……」
急なことで頭がついていかない。ただ分かるのは、レリアが約束を破って北の塔から出たことだけだ。
目の前の黒い髪のレリアは銀色の瞳を笑みに細める。
「あなたは来て欲しくなかったでしょうけれど…来てみたかったから来たの」
「来てみたかったからって……」
単純明白な言葉に眉を寄せてしまう。
彼女は知っているのだろうか?自分の存在が必要以上に人の視線を集めていることを。
現に彼女にはこの場にいるほほ全員の視線が向いている。