‐Fear‐
 日比野精神医療センター。

 日比野は来客にお茶を出すと、静かに椅子に座った。

「お疲れ様。他の人がつく前に君を推薦したんだ。…君以外思い浮かばなかった。」

「一応お礼を言っておいた方が良かったのかしら?ふふ…最初はヨリを戻そうって言われるのかと思った。」

「…理恵菜。」

「冗談よ。」

 日比野の前に座っているのは佐伯理恵菜。警察署に行った帰りだ。

「で、どうだった?」

「何も聞けなかった。」

「そうか…。今は誰でも無理かな。君の笑顔に賭けてみたんだけど。」

「何言ってるのよ。私をフッたくせに。」

「おいおい、そんな…。」

「大丈夫よ、あなたの希望どおり自立した女性になったから。」

「……。」

「乗りかかった船、私はずっと優太くんを担当してみせるわ。じゃあね。」

「ああ、頼む…。」

 資料を受け取ると理恵菜は早々に部屋から出て行った。
< 13 / 60 >

この作品をシェア

pagetop