‐Ｆｅａｒ‐

　「何が見える？」

「何も…見えない…。」

「もっと力を抜いて。誰かいるかい？そこに。」

「暗い。いない。寂しい…。」

「寂しい？何で寂しいんだい？」

「うぅ…。」

　震えて蹲る優太。

「ねぇ、止めた方がいいんじゃ…。」

「いや、もう少し。」

「震えて…苦しんでるわ、止めましょう！」

　理恵菜が中断させた。


「おい…、任せてくれるんじゃなかったのか？」

　日比野が溜め息をつく。

「苦しんでるの、ほっとけないでしょ！？優太君は…本当に多重人格なの？私そうは思わないけど。」

「…とりあえず休憩しようか。」

　優太は落ち着きを取り戻し、横になった。


　日比野のカウンセリングも直接的なものになっていたが、効果は得られていなかった。

　その度に理恵菜は優太が多重人格という事自体に疑問を抱いていた。

「時間なんですけど。」

　干潟と吉岡がカウンセリングルームに入ってきた。

「じゃ、私も。」

　荷物をまとめ、出て行く理恵菜。
特に日比野とも吉岡とも目を合わさない。

「じゃ、また。」

　優太を連れ、干潟と吉岡も出て行った。


　このままでは…どうすればいい？自分の力が足りないのか…。
どうすれば優太君を救えるんだ。

　日比野はもどかしくなり、軽く机を叩いた。