‐Fear‐
 警察署、取調室。

 ベテラン刑事の干潟は優太をじっと見つめていた。

 この少年が自分の両親を殺したのか?
凶器に家族以外の指紋はない。
しかし窓の鍵は掛かっていなかった…。
静かに座っている少年は小柄で優しそうな顔立ち。
とても力持ちには見えないし不良には程遠い。
今はこんな少年が重犯罪を犯す時代なんだろうか…。

「…優太君。黙っていてもわからないんだ。なぜ君はお父さんお母さんが死んでもそんなに落ち着いているんだ?…ショックで言葉が出ないか?」

 ぶっきらぼうな喋りの干潟。優太の返事はない。

 その時、バタン!とドアを開け、若い刑事が部屋に入って来た。

「すいませんっ、干潟さん!遅れて…。」

「ああ…、吉岡。座っとけ。」

「あ!あの、この少年なんですけど…。」

 ヒソヒソ話を始める二人。

(この子、精神科…心理カウンセリング受けてますね…通院してます)

(何!?障害者か?そんな感じしないが…)

(一応順序踏んどきますか?)

(う~む…)

 二人は少年を見つめた。
優太はじっと下を向いたまま座っている。





 日比野精神医療センター。

 たいそうな名前だが小さなビルの二階にある。

 優太がここに通い始めて一年。
まさか自分の患者が殺人の容疑者になるとは思ってもみなかった。

 だが、大事なのは目の前の現実に目を向ける事。
いつも自分が言っている事だ…。
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