‐Fear‐
 「優太君…、君は昨日何してた?」

「……。」

「夜は何食べたかなぁ?お父さんとお母さんと何か話した?」

「……。」

「今日は何も話してくれないのかな…?」

「朝起きたら両親が死んでた。」

「え?」

「朝起きたら両親が死んでた。」

「……。」


 小林優太との付き合いは約一年。
それなりのコミュニケーションは出来ているつもりだった。

 当時、14歳の少年がふらっと自分の所に来た時は驚いた。
聞けば看板を見て入ってみただけらしい。
今の生活への不安など人生相談みたいな内容だったが、僅かなおこづかいを持って月二回程やって来る少年を日比野はいつでも受け入れた。

 そして日比野は一つ感じている事があった…。
大きな大学病院で働いてきた経験からか?カウンセラーとしての勘か?

 この少年は多重人格者。

 それは日比野の中で確証があるわけではなかった。
ただ、時折優太が見せる違う顔。その僅かな違いを感じていた。
いつか違う人格を引き出せたら…。
そう思っていたらこの事件が起きた。

 もし他の人格が殺人を犯していたら?
恐ろしい想像をせずにはいられなかった。
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