‐Fear‐
 鬱蒼と生い茂った木々に囲まれその診療所はあった。
だが人の気配はしない。

「困ったな。誰も居ないし電話も出ない。休みか?…まるで廃墟だな。」

 日比野は途方にくれていた。

 近所の家の人に事情を聞いてみたが、誰も橘の事を知らなかった。
診療所はとっくに潰れていると思っている人もいた。

「しょうがない。」

 日比野は診療所の裏手の窓の鍵が開いているのを発見して、そこから中に入った。
不法侵入なのは十分承知だが、どうしても気になった。

 中はがらんとしていた。
最低限のものしか置いていない。

「これは休みとかではないな。ここから出ていったんだ。」

 日比野は罪悪感を感じつつも、何か資料はないか探した。

「何も無いな。無駄足だったか…。ん!?」

 机の下の奥の方に何かを見つけた。

「これは!?」

 それは写真。家族写真だ。
橘、その妻、優太、香澄が写っている。
そして…、もう一人。
優太と香澄の隣にもう一人子供が写っている。
だが、顔部分が切り取られている。

「誰だ?これは…。子供は優太君と香澄ちゃんの二人だけなはず…!どうなっているんだ!?」





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