‐Fear‐
 優太は何も語らず、干潟と吉岡に連れられまた警察署へと戻った。

 署の廊下、そこには妹の香澄が待っていた。

 目を腫らし、自分を睨んでいる妹に優太は目を合わせず俯くしかなかった。

「お兄ちゃん!な、何で…!?何でお母さん死んじゃったのよっ!!」

 叫びながら詰め寄る香澄。

「わからない…わからないんだ。」

「何でよ…。うぅ…。」

 そして泣き崩れる。


 香澄が友達の家から帰ってきた時、丁度優太が警察に連れて行かれた後だったらしい。
そして運ばれてゆく両親の変わり果てた姿を見て泣き叫び、しばらくそこを動けなかったという。

 香澄も新しい父には馴染めないでいたが、母の事は昔から大好きだった。
その母の死は想像を絶する悲しみだろう…。

 ん?僕は?悲しい…悲しいはずなのに。
何故か落ち着いている。
そうか…自分の心はこんなにも冷えきってしまっていたんだな。

 優太は微かに渇いた笑みを浮かべた。
あまりにも非情な自分にあきれていた。

 その瞬間を干潟は見逃さなかった。
妹が泣いているのに…。
こいつは本当に犯人かも知れない。
そんな気も起こっていた。
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