‐Ｆｅａｒ‐

　日比野は午前の診療を終え、一息吐いていた。

「ふぅ…。」

　考えているのは理恵菜の事。
手から擦り抜けていったものが再び手の平に舞い戻ってきた様な感覚。
不思議な気持ちに捉われていた。

「男と女には…、心理学は通用しないか。」

　ブツブツ独り言を言っていると…。
電話が鳴った。

「はい、もしもし。」

「……。」

「もしもし？」

「……か？」

「え！？」

「真実よりも深い場所。迷うなら自分に返ってくるぞ。」

「…どちら様ですか？」

「早くしろ。」

　ブツッ。ツーツー…。

　静かで暗く重い声。だが、おそらく機械か何かで声を変えてある。

「でも、たぶん男だな…。」

　少し胸騒ぎがしたが、仕事が仕事だけに気にしないようにした。
患者だろうか？いや、たぶんイタズラだろう。

　日比野は再び机に向かった。