‐Fear‐
 仕事が終わり、駆け足で事務所を出る理恵菜。
ふと時計に目をやる。

「やだ、もうこんな時間…。はぁ~今日もお弁当かな。ごめんね優太くん。」

 その時、鞄の中のケータイが鳴った。

 ピッ‥

「もしもし。」

「よぉ、仕事終わったか?」

「何よ?」

「おぃおぃ…冷てぇなぁ。ダーリンからの電話なのに。」

「…何の用?」

「う~ん…。何つーか、会いたいな~と思って。」

「ごめん。しばらくは忙しくて。悪いけど…。」

「中坊の相手ばっかりしてないで、たまには俺の相手してくれよ。」

「…ごめんね。」

「ふぅ。まぁ、いいや。またかけるな。」

「うん。」

 ピッ‥

 電話を切り、溜め息をつく理恵菜。

 別に冷たくする理由はない。
自分のわがままを聞いてもらっているし、優太の事も内緒にしてもらっている。
逆に感謝しなければいけないのかもしれない。
だけど…。

「なんか冷たくしちゃうのよね。」

 頭にチラッと浮かぶ日比野の顔。
それを打ち消すように頭を降って、理恵菜は歩き出した。
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