‐Fear‐
 診療所の事務所で、日比野は珍しい客にお茶を出していた。

「どうもすいません、突然。」

 椅子に座りながら茶をすすっているのは、吉岡だ。

「一人で来るのは初めてですね、刑事さん。」

「はは、たいした用じゃないんですが。最近優太君はこちらに来ていますか?」

「いえ、来ていないですよ。…やはりまだ優太君を疑っているのですか?」

「いや、上がうるさくてですね…。確認して来いと。」

「そうですか。」

「あの…、弁護士の佐伯さんはどうですか?」

「え!?」

「いや、来ているのかな~と思って。」

「最近は来てないですよ。何か?」

「いえいえ。聞いてみただけです。」

 その後、世間話を少ししてから吉岡は帰っていった。

「…何しに来たんだ?あの刑事。」



 車に乗り、煙草に火を付ける吉岡。

「ふぅ~っ…。何やってんだ、俺は。」

 そう言って、煙草をくわえながら車のエンジンをかけた。
< 57 / 60 >

この作品をシェア

pagetop