‐Fear‐
 捜査本部が設置され、警察署内は慌ただしくなっていた。

 禁煙3日目。干潟は座りながら人差し指でコツコツ机を叩いている。苛立っているのは誰でもわかる。

「干潟さん、また禁煙ですか?そんなイライラするくらいなら吸っちゃえば…。」

 吉岡が話しかけると、干潟はぎょろっと睨んだ。

「うるせぇ!今度こそ止めるんだからよ。母ちゃんの怖さを知らねぇな?…ったく、それにこのヤマ、坊っちゃん相手だから煙草は控えとかねぇとな。」

「はぁ…。」

「俺が苛立ってんのはそぅじゃねぇ。自殺の可能性が出てきたからだよ。」

「まぁ、自殺も考えられますよね…。子供が多重人格で悩まされてたみたいですから。」

「しかも本人は多重人格の自覚がない。面倒だな…。しかし夫婦で自分の腹かっさばくかねぇ?…ん~、またあの精神科の兄ちゃんとこ行くか。」





 「はい、じゃ今日はこれで。また。」

 優太の事があっても他の患者のカウンセリングは続けなければならない。日比野は午前最後の仕事を終え、一息ついた。

 …あれから数日。優太君から何も引き出せていない。
両親はやはり多重人格に気付いていた…。本人には言えず苦悩しただろう…。
しかし、一体どんな人格が?
母親が残した日記には具体的な事は何も書かれていなかった…。
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