菜綱の夜
「うっわぁ臭い」

鼻をつまんで菜綱が顔をしかめた。
「そんなに臭いか?」

俺にはたいして問題ではなかったが菜綱には最低な気分のようだった。
「じゃあ中に入ろうよ!」

病院に行くとは言ったが中に入る気は全くなかった。
「いや、こんな時間だ。院内には入れないよ。」

俺の言う事を聞かずに菜綱は先に行ってしまった。
「おい!菜綱、待てよ」

病院の玄関は信じられないが開いていた。

中はやはり薄暗く不気味だった。

見回りにでも見つかったらどうしようなどと考えていたが俺は菜綱の姿を見失った。
「なづな」

あまり大きな声はだせないが、やはり一人は怖い。

あの菜綱だってこんな所に一人は嫌だろう。

だが声は返ってこなかった。

暗くてよく見えなかったが前から誰かが来るのが見えた。

菜綱かと思い俺は近寄ったがそれはこの病院の入院患者だった。
「あっ、こんばんは」
「こんばんは、入院患者じゃなさそうだけど、何か用かな?」

その患者は男性だった。

三十代前半といった所だろうか、とにかく菜綱を見つけ出してここから逃げ出さないとまずい。
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