菜綱の夜
「おーい菜綱!」

菜綱がいた!屋上で空を眺めていた。

その時俺は真剣に菜綱が美しいと思った。

不思議な感じ。心ごと持っていかれるような感覚に魅入られていた。

俺が菜綱に見とれていると、菜綱の方が俺に気がついた。
「あっ、とーじ!」
「あっ、冬至じゃない!いきなり先先いっちゃうから心配したんだぞ!」

ポコンと菜綱の頭を叩くと菜綱はエヘっと笑った。
「ごめん!月が綺麗でさ!見とれちゃった。」

確かにあと数日で完璧な満月になるであろうと俺は思った。

俺は夢を見ていた。

限りなくリアルに近い夢。

俺は卒業したハズの中学校にいた。

そこで郁子は授業を受けていた。

英語だったと思う。

始めての科目だったのか緊張気味に彼女はノートをせっせと書いていた。

俺が言うのもなんだが郁子は頭の良い子だ。

教師に当てられてもちゃんと答えられるだろう。

英語教師が郁子を当てた。

緊張しながら郁子は前に出て黒板に答えを書くとよそよそと自分の席に戻った。

その時、俺と目があった。

俺は何となく親指を立てて見せたが、郁子は寂しい笑顔を見せるとそのまま席に着いた。
「菜綱!そろそろ帰ろうか?」
「うん!」
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