菜綱の夜
「おばーちゃんがいつもボクにお菓子をくれたんだ!」

菜綱の祖母はよっぽど孫が可愛かったんだろうか?
「だからって普通の食事とおやつは違うぞ!ちゃんとご飯食べなきゃ駄目だぞ!」

チューチューとシェイクを飲み干した菜綱は笑顔で答えた。
「うん!明日はご飯にするね!」

俺の願いは通じた様だった。
「ところで今日は何処にいこうか?」

俺はいつの間にかこの夜を菜綱とのデートの様に感じていた。

だが、菜綱の一言によって俺の甘い考えは一瞬で消えた。
「そうだな、その事故現場は?」

その事故現場、郁子の交通事故の現場の事だろう。

そこにはいけない。行ってはいけない。
「それは無理だ。」
「えっ?どうして」

菜綱の無邪気な顔が今は悪魔のように感じる。

行けるわけがない。

俺が、俺の家族が全てを忘れてきた場所に
「まだ整理がついてないんだ」
「それは、妹の事?それとも・・」
「うるさい!お前に何かに何が分かるんだ!」

言ってしまった。

菜綱はこの俺に今まで一緒にいてくれたのに、嫌いになられてもいい!

謝らなきゃ。
「菜綱!その俺」
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