菜綱の夜
菜綱は俺の腹部に抱きついた。
「菜綱?」
「ごめんね。あとはとーじが頑張らなきゃ。ボクはこの夜から消えるよ」
「違っ、」

俺に菜綱を引き止める権利などなかった。

俺はいつもの公園で菜綱の背中が見えなくなるまで見つめていた。

俺は俺自身の顔を思いっきりぶん殴った。
「馬鹿だ。俺は」

本当に馬鹿だ。

俺の私情に勝手に巻き込んだあげく、あんな大声をだして、ましてや菜綱は俺よりも随分と年下の女の子なのに、俺は最低な男だ。
「菜綱、ごめん」

俺の声だけが空しく公園に響いた。

全てを最初に戻したい。

それが出来れば何と楽であろうか?

俺はユタロウを探すどころか、この夜に出会った菜綱すら失ってしまった。

もう沢山だ。

終わりにしたい。

今までの事を全て忘れようか?・・・忘れる。
「私達は忘れやすい。自分が何を考えて、どう行動すべきかもう一度考え直す事が必要だよ。」

あの病院で入院患者が言っていた言葉だ。

私達は忘れやすい。

全く意味が分からない。

だけど、彼の言葉は今の俺にぴったりだ。

何を考えて、どう行動すべきかもう一度考え直す。

俺はユタロウを探す。そしてその後菜綱に謝る。
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