菜綱の夜
「あの事故以来、死んだ人が見えるようになったの!だからお母さんもお兄ちゃんもずっと見えてたよ!話しかけても何も言ってくれなかったけどね」
「母さんも死んでいるのか?」
「うん、私が高校に入る少し前にね」
「俺は死んだ人としか会ってなかったのか、だが不便だろ?その能力」
「湯太郎さんがその力を無くしてくれたから、もう大丈夫」
「そっか」
「うん」

別れの時間が近づいている事に郁子も気づいたようだった。なんと悲しい『うん』だった。

「あのさ、郁子!最後に俺と約束してくれないか?」
「約束?」
「うん!俺さ、郁子を守ってやるって言ったよな?」

郁子は何も言わず俺の次の言葉を待った。
「でも、俺死んじまってお前を守ってやれない。だから、お前はお前を守ってくれるような男に出会って欲しい。そして人の二倍、いや十倍以上幸せになってくれよ!それが兄ちゃんとの約束だ!」
「嫌だ!嫌だよぅ!」

郁子の目からは涙がボロボロと零れていた。
「笑え!笑ってお別れだ!」

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