甘夏の恋
シェフがスープを置いただけなのに

食器の無機質な音がいようにダイニングに響く

ピリピリした雰囲気になるのは

俺の目の前にいる

彼女のせいなのだろう

座っているだけなのに威圧感が凄い

自分の母親なのに

彼女の威圧感はいまだになれない

「経営の方は上手くいっているようね。姫島から聞いたわ」

先ほどまでこちらを見ていなかった彼女の冷たい目がこちらを見る

一瞬息をするのを忘れそうになった

「はい…社員がいいのでしょう
 話は変わりますが、淳一はもうすぐ退院出来るそうです。」

「淳一…?あぁ…そう。あなたが行っていた学校に手続きはしておきます。学力面の準備は、しっかりとしといてちょうだい」

「はい」

淳一の事など忘れたような言い方をする彼女にカチンときたが…必死で抑えた

実は淳一は義父の連れ子なのだ

「あの子は、成績は上がってるみたいだからまだいいけどほんとにお金ばっかりかかって嫌になっちゃうわね。とてもあの人の子供とは思えないわ。
それに比べてあなたは助かるわ。頭脳も運動神経も何もかも完璧なんですもの。そう思うわよね?」

俺は、何も答えず静かに微笑んで見せた

ガマンダ…ガマンスルンダ…ジュンイチノタメニモ

強く握った手をさらに強く握る

「失礼します。こちらはメインディッシュの“フォアグラのポワレ トリュフ風味のリゾット パルメザンのチュイルを添えて”でございます。」

!!!

俺の異変に気付いたシェフが上手くフォローを入れてくれたおかげで立ちなおせた

俺が冷静さを欠いてどうする…冷静さを欠けば欠くほど淳一が追い詰められていってしまう

アノトキノヨウニ…

レイセイニナレ…ジュンイチヲマモルタメニ…


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