雨瞳-アメ-
凛瞳
『時が止まる』って、きっとこういう事を言うんだ。


今なら、ジュエリーショップでボンヤリとダイヤに見惚れる女の人の気持ちがわかるような気がする。


目の前には、閉じられた黒い傘を差し出す女の子。

頭から制服、足先までずぶ濡れの姿にはギョッとしたが、なによりも印象的なのは、束になった黒い前髪から覗く瞳だった。

くっきりとラインを引いた二重瞼の奥で光る黒めがちのビー玉は、凛と真っ直ぐで。


変な感覚を覚えた。

吸い込まれてしまいそうな……
もっと見ていたいような……
今まで感じた事のない感覚だった。


それでも体はちゃんと機能していて、俺は傘を受け取っていた。


礼の一言も言えぬまま、彼女はすぐにやって来たバスへと消えていった。





──中村美雨(ナカムラ ミウ)。


俺が落とした傘を拾ってくれたのは、話した事もない、クラスメートだった──……















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