ぼくうつ。
「結婚ってね、ハコを開ける話に似てると思うの」

「箱? なんの話? 昔話かなんか」

よくわからない例え話に、
僕は彼女の顔を見て訊いた。

彼女は缶を両手で握り締めて、
こっちを見ることなく少しうつむいた状態で答えた。

「絶望ばかり詰まってたハコの中に、
希望だけが残されたって話よ。
知らない?
聖書か神話かは忘れたけど」

「あー、パンドラの話か。
ハコって言われたからわかんなかったよ」

「そうそう、それ。
パンドラのハコの話」

「でも、それがなんで結婚に結びつくかなぁ……
結婚って絶望ばっかかね?
確かに人生の墓場とはいうけどさ。
二人で一緒に生活するのって楽しいと思うんだけどなぁ」

「うん、そうなんだけど……
なんていうか、それなら同棲してればいいじゃない。
でも結婚するとなると色々なことがつきまとうと思うの。
そういう苦労はやっぱり私にとっては絶望みたいに感じるし。
ほら、結婚するとある意味引き返せないじゃない。
離婚するとそれなりなリスクが伴うし、経歴に傷ついたり。
だったら同棲するくらいにしておいたほうが、
別れた時に傷は少ないっていうか……。
なんていうか、気持ちの問題なの。
結婚することで、今まで他人だった関係が
一気に家族になるっていうことに違和感があるっていうか。
それに、一緒に暮らすと嫌な面も見えてくると思うし……
ってそれは、同棲も同じなのかもしれないけど。
だから、私にとってはやっぱり
同棲もそういう意味じゃ怖いっていうか」

彼女は不安そうな少し細い声でそう言った。
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