ぼくうつ。
「未来だよ」

「未来?」

今度は彼女がオウム返しに訊いてくる番だった。

似たもの同士だな、と少しおかしくなる。

「そう、未来。
予兆って言ったほうがいいかな。
ようするに、これから起こることが
全部わかってしまうっていう絶望だったんだよ」

「……未来のことがわかるのって、
絶望なのかな?
なんか先にわかったほうが安心できる気がするんだけど。
ギャンブルとかも先がわかれば勝てそうじゃない?」

「そうだねぇ……
全部わかるってことは確かにそうなのかもしれないけど。
人がみんな未来がわかってるんだったら、
そもそもギャンブルなんてしないんじゃないかな。
100%そうなるんだったら、
成り立たないでしょ。
でもその通りに生きなきゃいけないんだとしたら、
それこそ負ける勝負をやらされるのは苦痛でしょ。
このギャンブルをし続けなくてはいけなくて、
挙句その借金で自殺することになる、
なんてことがわかってしまうんだったら、
それは絶望だよね。
確かに勝ち続けるって未来が用意されてる人はうれしいかもしれないけど。
それに逆らうことができるとしても、
それに逆らった先に待ってるものもわかってしまうんだったら、
生きてる意味ってあるのかな?
そういう風にびっしりとスケジュール管理された人生って楽しい?」

「うーん……」

「それに自分がいつ死ぬってのがわかってる人生って嫌じゃない?
特に自分の大切な人が
あと何日で死ぬなんてのがわかるってのは苦痛じゃないかな?」

「それだったら、
その限りある人生をがんばろうって思えるんじゃないかしら。
大切な人が死ぬのもその人が死ぬまで大切にしようって思えるじゃない」

「すべてわかってるってのは、
人生をがんばろうって思うこともわかってるのかもしれないよ。
そんなわかった思いってどうなんだろう。
ひどく機械くさくない。
偽者って感じがしないかな」
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