【奏】雪に願う事


―――春…。




入学したての私は

遅刻ギリギリで

必死で学校に向かって走ってた。



普段から落ち着きがない私。




急ぎすぎて…



―――……転んだ。





あぁ…なんて

漫画みたいなオチなんだろう…。





そうヘコみながら

散らばった教科書を拾いながら

急いでた所為で鞄はおろか

ペンケースまで

開きっぱなしだったのを

恨めしく思いながら

真っ赤になった顔を俯かせた。





周りから聞こえるのは

嘲笑だけで…。




あぁ、こういう時

手を差し伸べてくれる人って

本当はいないんだ…。




まぁ漫画や小説みたいな上手い話

現実にはそうそうないよね…



そう思い、

ため息をついて

俯いたまま散らばったペンを

拾っていた、私の視界に

数冊の重なった教科書が見えた。






思わず

視線を上げた先に見えたのは…




ちょっと呆れながらも

笑いを堪えてる泰生先輩で…




この時は名前も知らなかったのに

その笑顔に…優しさに…

胸がドキッとしたのを

確かに感じたんだ。



「鈍くせぇ奴。
早くしないと邪魔になるだろ?」



そんな言葉だけど

笑顔は優しそうで――。





思わず見入ってしまった私は
慌ててお礼を言ったんだ。




全部拾い終わって
そのまま、歩みを進めていく
泰生先輩の背中を見つめながら…




この時、感じた胸の鼓動は…

新しい恋の訪れを

…感じずにはいられなかった。






< 4 / 27 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop