りんごゆき

柊くんの唄が始まっても、耳に音は入るのに頭まで届かなかった。



柊くんの唄を真剣に聞けなかったのなんて、過去にも未来にもこの時だけだと思う。



「かりん大丈夫?」



あまりに険しい顔をしていたらしい。

柊くんが唄うのをやめて丸太の上に座った。



「ごめん。
大丈夫だよ。」



自分でも驚くぐらい震えた声が出た。

私は人前では泣かない主義だから、涙はぐっと堪えた。



そんな意地なんかなかったら、子供みたいに思いっ切り泣き出してしまいたかった。

秘密基地がなくなることはそれくらいショックだった。

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