季節の足跡
…この拳は、俺のチカラ。
自分しか信じない、証。
俺がこの拳を振るわない日が来たならば、それは俺の最期の日になるだろう。
握っていた右手をそっと開くと、俺はため息をついて裏通りを出た。
その時初めて、表通りが騒がしいことに気づいた。
…げ。
もしかしてさっき殴ったやつが俺を悪者扱いして吹聴してるとか?
ヤな考えがよぎったが、表通りの通行人たちが見ているのは、俺と正反対の方向だった。
俺も一緒になって、ある一点の方向を凝視する。
人混みをかき分け、誰かが猛スピードでこっちに走ってくる。
…いや、よく見れば、かき分けるというより、突き飛ばしていた。
何なんだ一体、と顔をしかめる俺の耳に届く、誰かの叫び声。
「待ちやがれ―――ッ!この盗人―――!!」