季節の足跡

悲しいことに、運動は大の苦手な私は、すぐに追いつかれてしまった。


辺りを囲まれ、私は唇を噛む。


「やっちゃえ!リーダー!」


誰かの叫び声をきっかけに、リーダーコールが沸き起こる。

当の本人は、勝ち誇ったような笑みを浮かべ、一歩ずつ私に近づいて来る。


「くっ……」


喧嘩など、したことはない。

勝てる見込みはゼロだ。


―――そんな時だった。



「イジメはダメだぞ、イジメは!」



どこからともなく聞こえてきたその声に、その場にいた誰もが声の主を探す。


きっと、誰よりも早く気づいたのは、私だろう。

そう、その人はいた。


―――木の、上に。


「よっ…と」


木から飛び降りたその人は、見事に着地し、ぐるりと辺りを見渡す。



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