季節の足跡

あたしはハッと我に返り、得意の作り笑顔を浮かべた。


「はい、大丈夫です」


本音を言うと、右足をひねったみたいですごく痛かった。

でも、今まで転んでも泣かずに笑っていたから、自然に作り笑いをしてしまう。


そうすると、大抵の大人はあたしを褒める。

"強いね"って。


でも、あなたは違った。



「無理して笑わなくていいんだよ?」


「………え?」


あたしが驚くと、彼は寂しげな表情をして言った。


「痛かったら痛かったって言えばいいし、泣いてもいいんだよ」


吹き抜ける風が、身体に染み込む。

そんな言葉をかけてくれた人は、今までいなかった。


無理して笑うことが、あたしの為にも、周りの為にもいいことだって思ってた。

その我慢が、逆に自分を苦しめているということを教えてくれた人は、誰もいなかった。


「ほ…んとう、に?」


震える唇を無理やり動かし、あたしはそう尋ねた。


「うん」


その笑顔を見た瞬間、あたしはその場で泣き崩れた。

今まで押し殺してきたいろんな感情が、一気に溢れ出た。




それが、あたしとあなたの出逢いだった。



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