月と太陽の事件簿2/点灯す(ともす)
達郎には変な癖がある。

事件を推理する時、必ず缶コーヒーを手にするのだ。

なんでもはじめて事件を解決した時、たまたま缶コーヒーを手にしていたそうで、それ以来癖になっているらしい。

天才物理学者が地面や床に大量の方程式を書くのと似ている。

やがて乾いた音がした。

達郎が缶コーヒーを開けた音だった。

そのまま一気に飲み干し軽く息を吐く。

「レミ、ちょっと手伝って」

「へ?」

呆気にとられたあたしに達郎がそっと耳打ちする。

「できるワケないでしょそんなこと!」

達郎の提案にあたしは声を荒げた。

「大丈夫だって」

「無理無理!」

「なんかあったらオレが責任とるから」

「あんた警察じゃないでしょ!」

達郎がそっと両手をあわせた。

「お願い、レミ」

これでもうあたしは何も言い返せなくなってしまった。

もう、お人好しな自分がつくづく嫌になる。

あー、達郎のひきょー者っ。

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