じいさんとアタシ

いつの間にか、彼の話に聴き入っていた。

アタシの知ってるお母さんと、外のお母さん。


藤堂さんの口からでてくるお母さんは、アタシのお母さんじゃないような気がした。



「クリーニング代を渡そうと、昼間にカフェで待ち合わせしたんだ。

僕は仕事が長引いて、約束の時間に遅れてしまったんだよね。


キミちゃんは本を読んでいて、僕が来たことに気がつかなかったんだ。


で、僕が『遅れてすいません』って言って、彼女の顔を見るとなんと泣いていたんだ」




「え?」


あのお母さんが?

結婚がダメになったときですら、泣いたことを見たことない。


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