群青の月 〜『Azurite』take00〜
カッパとおばあさんとカカシ
倉庫と倉庫の間の、細い道
外は少し靄が出ていた
広場の向こうの駐車場に
車は停めてある
ひょっこりひょっこりと
奴はソフトケースを担いで来るが
足を少し引きずっている
…昨日、痛めたかな
手を出しても
繋いで来ないだろうなと思ったから
だいぶゆっくり、速度を落として歩いた
「 ……でっかいベース 」
―― 開けてもいないのに
弾いてない奴にはわからない
やっぱりコイツは、楽器やってる奴だ
車の横に立ってロックを開ける
奴は、助手席に乗る前に後部席を開け
丁寧にベースを横たえ
シートベルトまで締める
煙草を出して、火を付けた
―― その一瞬の隙に
忽然と奴は姿を隠して
慌てて覗いたバックミラーに影
腰を浮かして後ろを見ると
車も見ずに道路を渡って
向かいの歩道のフェンスを飛び越え
建物の影に消えてしまった
「 ……… 」
多分もう、これで会わないんだろうな
そしてベースの上には
真っ直ぐで太いキュウリが一本
まるでお礼のように、
ぽつんと置かれていた