群青の月 〜『Azurite』take00〜
夕闇の屋上
少し赤みが射して来た空に
よく目立つ星が、一つ光る
―― 久しぶりの来客に
冷蔵庫から
コーヒーの缶を出して
テーブルに置いた
蜥蜴の彼は
辺りを見回しながら
なんだか興奮している
「 うっわあ…何だここ
ここだけ古き良きドラマ世界じゃない?!
何てとこ住んでんだオマエ!
羨ましい!! 」
ベットに座って煙草を吸いながら
それに対して緩く、笑う
ソファーに拡がって
天井のデカい、ブルーグレーの
扇風機を見てる『緑川』
…なんだか久しぶりに
"人の声"を聞いた気がする
―― 開け放した窓とドアの向こうから
掠れたビル風が入って来た
「 青山くんは
どっかライブの帰りだったの? 」
「 …いや どうやら
これからライヴらしい 」
「 らしいって
……行かなくていいの?!何時から?!」
緑川はキョロキョロして
壁掛けの丸時計を見る
「 夜7時から東口
飯食ってから行こうとしてたんだ
助っ人だよ 」
「 あ なんだ
じゃあまだ時間平気か… 」
緑川は、心底ホッとした様子で
ピアスだらけの耳の後ろに
ギターダコの付いた手を入れて
髪をあげた
「 青山くん
助っ人って事はさ
固定で組んでないの?今 」
「 いや…ベース自体
最近弾いて無かった 」
「 なんだよそれ
あんたみたいな奴が 」
「 ……どんな奴だよ 」
煙を吐いて苦笑した
「 うちのバンド、来ないか? 」
「…バンドか」
それだけ言って
煙草を消す
「 …なんか
気配殺そうとしてる?青山くん 」
「 ……この図体でか? 」
「 ―― いや、ちょっとさ
赤池呼んでいい?
まだ出先だろうけど
駅二つ先
近場に住んでるからさ
東口の、ライヴハウスに呼ぶよ 」