群青の月 〜『Azurite』take00〜



重い鉄のドアを開くと、強いビル風



――― 上には夜空



周りは黒い鉄柵で囲まれ
雑居ビルの頭が幾つも見え
そんな中にここが埋まっている事がわかる



鉄柵の端から端に
白くて細いナイロンロープが張ってあって
今は無い洗濯物が
何枚も翻っているのが見えた



"こっちこっち"と促され
左後ろを振り向くと
ドアが一つと、窓がひとつの
四角い出っ張りが、貯水槽の下





電気を点けると、ベットと低いテーブル

外国の古い映画に出てくる様な
頭の角が丸い、白い冷蔵庫


そして赤い色の、皮張りソファー


横には背の高い
オレンジ色ランプシェイド

コンクリート部屋、広さは12畳位




案内してくれた男性は
やはり中年で
竹田さんの部下、と言う感じの
肌が焼けていて
しっかりした目をする人だった

一度、倉庫に発注で
来た事があるかもしれない



「 五階は全部、事務所で
竹田さんの持ち物

昼は人がいるけど、夜には無人
でも三階に俺は住んでるから

一階はコンビニだし、
連絡入ってからすぐここは
掃除させたから
もし館に忘れ物とかあったら言ってな
すぐ届けさせる 」




「 …ここは 」


「 竹田さん、こういう所、好きでさあ
何て言うの?
昔の『傷だらけの天使共』とか
『探偵ストーリィ』とかさ
ドラマあったんだけどね

若い時は、
ここが溜まり場になっててな 」



「 あの洋館は? 」




「 あぁ あそこも
途中からは、女と住んでた
取って来るもんあるから
先に鍵、渡しておくよ 」


「 ありがとうございます 」




ついていたのは
かなりイメージの違う、
ウサギの付いた、可愛いキーホルダー

奥さんか子供がつけたのかな



それをチリチリさせながら
部屋に入ると、まだ真っ暗だ





「 あれ… 電気は? 」



「 ランプ、あるよ 」



「 点けな 」



「  うん  」





――― 息を飲んだ






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