劇場版 乙女戦隊 月影
「さ、先程は、ありがとうございました」

夏希は頭を下げた。

「い、いいですよ!あんなくらいで頭を下げられると…こっちが困ります」

はにかみながら、両手を振る照れた仕草に、

夏希はきゅんとなった。

はっと見は、あんまり男前ではないけど、誠実そうで好感が持てた。


夏希の隣で、携帯ゲームに勤しむ蒔絵は、男子学生に見向きもしない。

「あのお〜」

夏希と、男子学生は自然と話だした。

三門の上は、なぜか夏希達…三人しかいない。


数分間雑談した後、男子学生は、いきなり携帯を見ると、慌てだした。

「やばい!もう降りないと…」

男は夏希に頭を下げ、

「下に、友達を待たしてるんですよ。俺だけが、上を見たいと言ったから…」

階段に戻ろうとする男を、夏希は思わず止めてしまった。

「あ、あのお…」

夏希は呼び止めたことに、自分で驚いた。

だけど、せっかくの行動だ。

思い切って、きくことにした。

「お、お名前は?」

その質問に、男はしばらく夏希を見つめた後、優しく微笑んだ。

そして、ゆっくりと口を動かした。

「中島…中島登」




「中島…さん…」

夏希は、言葉を頭を刻むように呟いた。

中島は頷くと、

「じゃあ…」

通路に開いた穴に、体を沈めた。階段を降りるのだ。


「中島…登」

なぜか…また会えるような気がした。

「中島…登」

名前を何度も繰り返す夏希に、蒔絵は携帯の手を止め、夏希を見ることなく、一言口にした。

「やめとけ…」


「え?」

しばらくぶりに聞く蒔絵の声に、夏希は驚いた。

蒔絵は携帯をしまうと、歩き出した。

夏希の前を通る時、

「今の男の目の奥…」

蒔絵は目を細め、

「影が見えた」

先程気づいた中島の瞳の奥を、思い出していた。

「影?影って、何よ!」

夏希がきいても、もう蒔絵は答えることなく、階段を降りていった。
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