劇場版 乙女戦隊 月影
お水取りで有名な二月堂の急な階段を上り、九鬼は下っぱを蹴散らしながら、奈良を一望できる有名な舞台の上に来た。

二月に行われる星祭りでは、夕刻になると、本堂に万灯明を灯し、星曼荼羅を掲げる。その炎が燃える姿は、舞台の下から見ると、幻想的である。

「フン!」

九鬼の蹴りを喰らった下っぱが、舞台から飛び落ちると、綺麗に整えている芝生の坂を転がっていく。


九鬼が舞台の上で、下っぱを相手にしている時、階段を上がった右奥のトイレから、誰かが出てきた。

ちなみに、トイレのそばに有名なお茶屋があり、作者の学生時代の憩いの場所である。

「九鬼!」

トイレから出て来たのは、加奈子だった。

「装着」

乙女どどめ色に変身した加奈子が、舞台に向かおうとした…その時!

お茶屋の暖簾の下から、箸が飛んできた。

どどめ色の肩に当たった。

「何奴!」

二月堂のお茶屋は、わらび餅がうまい。甘さを抑えた餡蜜と、透明のわらび餅とが絶妙である。そこにしかない行商味噌も、絶妙だし、釜に入ったお茶も旨い。

二月堂に行ったら、是非食べてほしい。


「まじうま!」

わらび餅を頬張りながら、暖簾を潜って、姿を見せたのは…。

「蒔絵!」

予想外の蒔絵の登場に、驚くどどめ色。

「ひ、ひしゃしぶうりだあなあ〜」

まだわらび餅を喉に流していない蒔絵は、どどめ色に話しかけた。

「フッ」

どどめ色は鼻で笑うと、蒔絵を見つめ、

「何か用かしら?いつも、やる気のないあなたが、あたしに」

「ううう…そうぐだあ……用がある!」

途中、わらび餅を飲み込んだ蒔絵は、どどめ色を睨んだ。

「何かしら?」

どどめ色は、腕を組み、

「いつも戦いに参加しないあなたに、あたしはシンパシーを感じていたわ。真面目に、何の報酬もない戦いに、いつも一生懸命な九鬼や、結城と違い…あんたは至って、マイペース」

どどめ色の眼鏡が、真上に来だした太陽の光に反射した。

「月影の中では、あんたが一番…あたしに近いと感じていたわ」

そのどどめ色の言葉に、蒔絵は顔をしかめ、頭をかいた。

「お前…まじ、だるいなあ」

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