劇場版 乙女戦隊 月影
(もう…戦えないわ)

すべての力を使い果たし…九鬼真弓は動けなくなっていた。

(もう…力も失った)

九鬼は心の中で、笑った。

(我ながら、よくやったわ。こんな…中途半端な力で…)

九鬼の脳裏に、今までの戦いが走馬灯のようによみがえる。

九鬼は微笑み、

(もう十分よ…九鬼真弓…あなたは、よくやったわ)

全身から力が抜けていく。

(もう…十分よ…)

自らを納得させ、眠りにつこうとした九鬼は、

突然目を開けると、歯をくいしばった。

(な、何を言ってるんだ!あたしは!)

九鬼のかすれた視界に、まだ戦っているブルーやブラックの姿と、十字架にかけられた里奈の姿が映る。

(戦え!戦わなくちゃ!みんなが、戦っている!あたしも…いかなくちゃ!)

しかし、九鬼の心も虚しく…もう、指先一本も動かない。

(お願い!)

九鬼の目から、悔し涙が流れた。

(くそ!)

涙が流れたことが、悔しかった。

(涙を流す力があるなら…腕の一本でも動け!)

九鬼は目だけを動かし、乙女ケースを探した。

(もう一度…あたしに、力を!)

動かない手に力を込めた時、

温かいぬくもりとともに、九鬼の全身に力が戻ってきた。

「こ、これは?」

九鬼の手に置かれたのは、黒の乙女ケースではなく、銀色の乙女ケース。



「やっと…あなたにお返しできます」

九鬼の手に、銀色の乙女ケースを置いたのは、早奈英だった。

早奈英は涙を浮かべながら、

「半年ほど前…交通事故に遭い…あたしは、全身の自由を失いました。そんなあたしを…あの日、あなたは訪ねてきた。この乙女ケースを持って!」

早奈英の瞳から、涙が溢れ、

「乙女ガーディアンは、女神を護る為に、装着者に強靭な肉体を与えてくれます!変身しなくても、ケースを身につければ…車椅子に乗れるくらいに回復させてくれる」



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