Happy garden.【短編】
元サヤになんてなりたくないから、気づかなかったふりをしたい。
結局、携帯を開かないまま、かばんに戻した。
「おい、かけなおさんで、ええんか」
声をかけられて初めて、自分の行動を誠司さんに注視されてたと知り、顔をあげた。
「電話の相手、彼氏か親御さんやろ。何も言わんと泊まったから、親御さん心配してるんや――」
「心配してくれる人なんていません」
誠司さんを遮ったその言葉は、自分でもかたい声だと思う。
震えないように、わざと低く力の入った声を出した。
「両親も親しい親戚もいません。わたしは一人です」
誠司さんの顔は見れなくて、その後ろを見ていた。
見る、と意識してるのではないけど、誠司さんを見たくないから、視線は彼の後ろのどこか。
それでも、彼が息をのんだと気配でわかった。
「電話はたぶん元カレですけど、今は連絡をとる気にならないので」
視線をおとし、前髪を触りながら、うすく笑った。