Happy garden.【短編】
その傍にある葉のない茶色の幹を見上げた。
「……つぼみがついてる」
枝の先には、茶色のつぼみ。
まだ花びらの色が見えないけれど、咲く日が近いことは確かだ。
この桜の木につぼみがついたら、と決めていたことがある。
今がそれを実行するときだ。
「花見?」
「ええ」
日も暮れた頃、仕事帰りに空の弁当箱を届けにきた誠司さんに玄関先で話をきり出した。
初めて会ったあの日は住んでるアパートを教えなかったけど、弁当を作るようになってからは隠すことを止めた。
彼に弁当箱を届けたいと言われたからと、もう知られて困るようなことはないと誠司さんを信頼できるようになっているからだ。
「桜が咲いたら、そこの公園でどうかなって思って」
敬語もなくなった。
今ではすっかり親しい友人の間柄だ。