Happy garden.【短編】
視界に薄い桃色が広がっていた。
桜の花が咲いてる!?
慌てて桜の木に駆け寄って、見上げた。
桃色にふくらんだつぼみと開いた花。
5分咲きといったところかな。
桜は咲き出すと早いんだ。
お花見をするなら、今週末。
天候にもよるけども、来週末は散ってしまってるかもしれないもの。
ほんの少しの時間も待ちきれない思いで、わたしは誠司さんの家へと駆け出した。
最近ではすっかり見慣れてしまったエントランスを抜け、エレベーターのボタンを押す。
まるで子供みたいにその場で足を踏み鳴らし、ゆっくりと下りてくるエレベーターの階数表示を見ていたけど、
結局、すぐそばの階段を二段飛ばしで上がった。
ローヒールのくせに、カンカンとうるさい音が響く。
疲れなんて気づかないまま6階にたどり着き、エレベーターホールを通って廊下に出た。
当然のように進行方向である誠司さんの部屋を見て、わたしは動きを止めた。
まるで心臓が凍ってしまったかのように、動くことができなかった。