Happy garden.【短編】
「捨てるんなら、俺にくれへん?」
「は?」
男はわたしの前まで来ると、おせちを指さして言った。
『くれへん』って『ちょうだい』って意味だよね。
「食べるの、これを?」
「ああ。一人で暮してるから、もう何年もおせちなんか食べてへんねん。やっぱ、正月にはおせちが食べたくなるやん」
「何年も食べてないって、お正月なのに実家に帰らないの?」
大きな声を出してしまい、たくさんの息が白に染まった。
この人が何歳だか知らないけど、わたしよりは年上に見える。
学生じゃあるまいし、帰省するお金がないようには見えなかった。
「仕事が忙しいねん。31日まで仕事やから、帰る気になれへんくて。帰っても、ゆっくりできんと疲れるだけやし。
で、それ、食べてもええん?」
もう一度訊かれ、自分の抱える包みを見た。
今頃、彼氏――『元彼氏』が正しいんだけど――に食べてもらうはずだったコレ。
おせちって品数は多いし、手間のかかるものばかりだから、昨日一日がかりで作った。