Happy garden.【短編】
春とはいえ、日の出る前の朝はかなり冷え込んでいて、ぶるりと体が震えた。
でも、そんな寒さを吹き飛ばしてしまうくらいに空気が気持ちいい。
大きく息を吸い込み、吐き出す。
アパートを出て、通りを歩く。
どんどん歩く。
心が冷えて落ち着くと、今度はさっき温めたタオルをかばんから取り出した。
かなり熱めにしたそれは、ビニール袋越しからも熱を伝える。
それをそっと目に当て、腫れたまぶたを癒した。
天を仰ぐように顎を上げ、目にタオルをのせること数分。
不意に思い立って、そのタオルを下げた。
広がるのは薄い桃色。
桜の花が視界を占領した。
いつものように歩いた足は公園にたどり着いていた。
誠司さんと花見の約束をしたけれど、もうそれが果されることはない。
唐突に、そう決める。
今のままでは彼に会えない。