Happy garden.【短編】

「あ」


しかし、台所に立って透明ケースの米びつを見て思い出した。


お米がない。


お弁当作りをやめてからは食材の買い物の量が減り、週末にまとめ買いをするようになった。


先週の買い物の時点でかなりお米が減っていたけど、冷凍もしてあるから大丈夫だと思って買わなかったんだ。


ところが、その冷凍分は週明けすぐに食べ切り、火曜に残りの米全部を炊いて、余った分は冷凍した。


そして、それを昨日食べ切ってしまった。


「ごはん、どうしよう」


パスタなら家にある材料でできるけど、今日の昼も会社近くの喫茶店でカルボナーラを食べた。


麺――しかも、パスタ続きは嫌だな、と思う。


やっぱり一日に一度はお米を食べたい。


「買いに行くか」


一言つぶやくと、ソファーに置いた鞄を掴み、黒のロングカーディガンを羽織る。


ふと思い浮かんだ誠司さんの顔は頭を振って追い払った。


パンプスを引っかけると、ドアをゆっくりと押し開いた。

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