Happy garden.【短編】
このまままっすぐ歩けば5分でアパートに着く。
そうわかっていたはずなのに、わたしの足は自然と右に向いた。
もう行かないと決めていたはずなのに、公園を通らない帰り方を忘れてしまったかのようだった。
惹かれるように、薄桃色――桜の木へと近づいていった。
公園を囲うように、満開の桜が咲いていた。
あの朝、今年の桜を見るのは最後だと決めたのに、早くも破っている自分に呆れる。
それでも、足は止まらない。
見るたびに誠司さんのことを思い出して辛いのに、桜が完全に散って緑になるまでは、切り離すことはできそうになかった。
桜のトンネルをくぐる。
夜の田舎の公園だからか、花見客はいなかった。
街灯に浮かぶ白に近い薄桃色がとても綺麗だ。
そして、ゆるいカーブの先のごみ箱へたどり着いた。
初めて誠司さんに会った場所。
今思えば、あのときこの公園に寄らなかったら、このごみ箱におせちを捨てようとしなければ、いったいどうなってたんだろう。
家と会社のつまらない毎日を送っていた?