Happy garden.【短編】

「どうしてそこまでして、一緒に食べようと思ったの?」


「最初は、捨てられるおせちがもったいなくて声かけたんや。

ずっとお正月らしいことしてへんかったから、あのとき言ったとおり、捨てられるくらいなら俺が食べたいって思った」


誠司さんがゆっくりと振り向き、わたしの瞳を見つめた。


たった1メートル先から彼に見られていると思うと、血が騒ぎ、喉がからからになった。


「せやけど、おせちのためだけやったら、知らない女の作ったおせちをホンマに食べたりせえへんかった。

カスミが心配やったねん。強がり言うわりには今にも壊れそうで、一人にしたらあかんって思った」


彼の右手がわたしの頬に伸び、首がぶるっと震えた。


その震えが伝わることを恐れ、とっさに「……あ、ありがとう」とかすれた声で呟いた。


心配してくれたことへのお礼。


しかし、それをきちんと説明することはできなくて、彼に通じたのかはわからない。


「それで、なんで急に俺に彼女がおるなんて思ったんや」


誠司さんは荷物を地べたに置くと、わたしの両頬を手で挟み、目をあわした。


誠司さんが腰を曲げて、わたしの顔にその顔を近づける。

< 73 / 78 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop