Happy garden.【短編】
月明かりしか照らすものはないというのに、誠司さんの真剣な瞳と薄い唇が見える。
あまりの近さに、さらなる緊張が体を駆け抜けた。
「だ、だって……」
言いたいのに、それ以上言うことができなかった。
彼を意識すればするほど、言葉が砂のように崩れ落ち、出てこない。
見られ続けていることに耐えられなくなって、ぎゅっと目をつむった。
「“だって”なんだ?」
誠司さんの息がわたしの瞳をくすぐる。
左頬に添えられた手が撫でるように首筋へと移動する。
わたしは体の横にたらした両手をきつく握りしめた。
「だって」
同じことを繰り返しながら、一気に言った。
「誠司さんの家から綺麗な女の人が出てくるのを見たんだもの」
彼女じゃないなら、どうして一人暮らしの男の家から異性が出てくるのだろう。
「俺の家……女?」
彼の声が聞こえたけれど、わたしをくすぐるものはない。