切望と絶望の扉
教戒師がまだか?と俺の顔をまじまじと見ていたことに気付く。答えを待っていたのだ。大変なのだな。この仕事も…死が決め付けられているのに宗教か…。
俺は当然のことながら無宗教を選択した。俺は刑務官と目を合わせ、口を開く。
「最後に一つ…今何時か教えてほしいんだ。いいか?」
「わかった。今は午後10時43分だ。」
俺がそう質問したら、刑務官はすんなり答えてくれた。そして、ここに俺は大きな疑問を感じてしまったのだ。
俺の自我が目覚めてから24時間てとこか。おかしいな…死刑は普通午前中に執行されるという記憶が片隅にある。
いや、おかしいのはそこではない。朝呼ばれて、その後、刑務官と話したにしても時間の経過があまりに早すぎる。時間の過ぎ方が異常なのだ。
そういえば、俺が最初目覚めた時に、向かいの牢に入ってたあの男、俺のことをあと24時間切ったとかなんとか言っていたな。なぜ知っていたんだ。
死刑執行時間は極秘じゃないのか…。同じ死刑囚といえど、知れるはずがない。
不思議だ。謎は数多に及ぶが中でも死に際で熟考できる自分が一番理解できない。
今の俺に死は恐怖であることには変わりはない。
しかし、自分の胸の内に…そのさらに奥底になにか得体の知れない感情がある。なにかが…。
これは…まさか!