切望と絶望の扉


 額は汗ばみ、目尻や頬に多少シワはあるが、着用しているスーツがぴしっと決まった目鼻立ちの整ったいい男だった。年は40代半ばといったところだ。

 おれは自分をさらに知りたくなった。スーツに手をぱたぱたやると、内ポケットに長財布があることに気付いた。長財布の中にはカードがいくつもあり、札入れには一万円札がびっしり詰まっていた。数えるのが面倒臭いぐらいだった。

 …やはり、おれは一般人ではなかったのか…。


 財布の中だけで有り余る金があると知ってもこの時、歓喜することはなかった。

 そして、財布の手前ポケットから免許証を発見した。名は…松木洋介、年は思った通りの44歳であった。
 そしてすぐ、免許証を財布に戻してしまった。今は名前、年齢だけでおれは満足だった。

 再び鏡を直視し、色々な表情を造ってみせた。眉を寄せた顔が特に印象強かった。が、その途端に先程とは比べものにならない頭痛が始まった…。

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