マワルとソラ
―五月―
廻はこの春、とうとう高校生になった。

小学生の時には高校生はもう「大人」であり、何でも、どんなことでも自分でできるようになっている思っていた。

でも、朝の課外授業のための早起き、新しい制服に袖を通す作業、初めてのバス通学、これらの作業に馴れるうちに次第にその考えはしぼんでいった。

―大人になっていくのは体だけだ。心は小学生だった頃と何にも変わっていない。―

そう思うと、大人の中にも、一体どれだけの子供が混じって社会はなりたっているのだろうか。てゆーか子供と大人の境界線っていったいどこにあるんだろう。

そんなことを考えながら今日もバスに揺られて通う高校。バスの揺れがとても心地良く窓から差し込む光があまりにも暖かくて、ついウトウトとしてしまう。




車内がざわめき、人が動く気配を感じてハッとした。「七条」についたのだ。

廻は寝ぼけながらも定期券を運転手に見せて降りた。

「ipodでも持っていたら、暇なバスの時間も楽しく過ごせるのにな。」

と、一人ごちながら、ゆっくりと歩いて行く。

廻の通う高校に行くには、「七条」でバスを乗り換える。本当は歩いてもいけるのだが、高校は山の上にあり、とても歩いて行く気にはなれない。

みんなも考えは同じ様で、さっき乗っていたバスに比べたら本数の少ない「山バス」に乗るために今日も長蛇の列ができている。

「山バス」というのは「七条」から「高校前」まで行くバスの通称。

どんな学校にでも一つや二つは特有の通称があるものだ。

ほどなくしてクラクションを鳴らしながらやってきたバスになんとかギュウギュウになりながらも乗り込む。およそ5分程の道のりだけど、今の廻にとっては一日で一番の激務だった。

―この一か月で大分馴れたな。初めのうちは吐き気が治まらなかったもの。―

坂道を上り、グニャグニャに曲がっている道を進むとそこに高校はあった。高台の上にあり街がいっぺんに見渡せる高校。それが廻の通う高校だった。

いつも定期を探すふりをしながら、一番最後にバスを降りてバスを見送るのが日課になっている。

大勢の学生を吐き出して身軽になったバスがクラクションを鳴らしながら走り去っていく姿がたまらなく可愛かったから。ただそれだけの理由で廻はバスを見送る。






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