恋の公倍数(受験生+塾講師)
私は手にシャーペンを握り締めたまま、まーちゃんと話していた。
千夏は、気を使ってくれたのか、すぐに眠ってしまった。
騒がしいバスの中で、2人きりの世界。
まーちゃんと隣同士で話すって珍しい。
教室ではまーちゃんはいつも私の前に座って、振り向きながら話してくれる。
「まーちゃん。私が最初に塾に来た日のこと覚えてる?」
私は窓の外を見るふりをして、窓のガラスに映るまーちゃんを見ていた。
「当たり前だろ。あんな生意気な生徒、めったにいないから。俺の顔みようともせず、恐い顔してたよな。お前は・・・」
「だって・・・塾なんか来るの嫌だったもん。しかも、いきなり授業に入らされて、その先生がわけわかんないこと言うから!!」
思い出すだけでドキドキする。
初めて会ったあの日
『信じてついてきな』って言ってくれたまーちゃん。
信じるなんて、恥ずかしくて言えないけど、
信じてる。