恋の公倍数(受験生+塾講師)
バスに戻ってきた私を見つけたまーちゃんは、佐藤先生に言った。
「あ。すいません。そこ、あいつの席なんで」
ごめんねと言いながら立ち上がった佐藤先生は、何やら書類をまーちゃんに渡した。
「坂ノ上先生、ちょっと相談したいんで、隣のバスに移動してもらえます?」
私には関係のない書類。
きっと講師だけに必要な合宿の打ち合わせ。
『あなた達子供には関係ないのよ』
そう言いたいかのように、冷たい視線で、佐藤先生は言った。
「坂ノ上先生、ちょっと借りるね。ごめんね~」
まーちゃんは、少し困った表情になり、うーんと頭をかいた。
「ごめん!!鈴木・・・ 打ち合わせするから隣のバスに行かないといけなくなった。その代わり、夜の勉強みっちり見てやるから許して」
「別にいいし。早く行きなよ」
私はバスを降りていく佐藤先生の背中をにらみながら言った。