恋の公倍数(受験生+塾講師)
「チャンスだよ。誘うなら今だよ」
千夏は、興奮して手をバタつかせながらキョロキョロ周りを見た。
「あ!1人になった!!行こう!」
私は千夏の手を引いて、走り出した。
「池田先生~!」
私は、普段そんなに仲良くないのに、かわいこぶって池田の元に走った。
池田は、かけていた眼鏡をぐぐっと押して、私達を見た。
「こんな時間に元気だなぁ。鈴木さんと斉藤さんは・・・」
ちゃんと名前を覚えてくれていることにちょっとだけ私は嬉しくなった。
まーちゃんだけじゃないんだ。
ここにいる先生達は、みんな真剣に私達と向き合ってくれている。
「池田先生、明日は先生の授業ありますか?」
私が聞くと、池田先生はう~んと言いながら、天井を見た。
「どうだったかな。明日も俺は特進だけだったと思う」
隣の千夏のがっかりした気持ちが伝わってくる。
「な~んだ・・・」
「そんなに俺の授業受けたいの?」
千夏は、恥ずかしがっていた態度を一変させ、ハイテンションで答えた。
「受けたいです!!最近、池田先生の授業受けてないんで、寂しいです。私、すっごく成績上がったんですよ!」
「おお!そうか?斉藤さん、頑張ってたからな。英語の質問ならいつでも受け付けるよ」
まーちゃんとは真逆なタイプだけど、女子に人気がある理由が何となくわかった。